『画期的新訳』
文学部の出身でもなく、ましてや英国文学の専攻でもない私でも、ジェイムズ・ジョイスくらいは知っている。彼はアイルランド出身の画家ではなく作家で、「ユリシーズ」の作者であることぐらいは知っている。
アイルランドといえば、エンヤさんの故郷であり、U2の出身地でもあり、The Beatlesのメンバーの出生DNAも何らかの形で関係がなくもない。
そのジョイスの"Dubliners"の新訳ということで、ましてやあのうるさ型の柳瀬尚紀の訳ということで、日本のジョイス・オタクとかジョイス専門家は戦々恐々のはずのはず。「ダブリン市民」とか「ダブリンの人々」より「ダブリナーズ」のほうが、「そのままやんけ」と言われようが、なんと言われようがそのままだからいいのだ。「長いお別れ」ではなく、「ロング・グッドバイ」であり、「助けてくれ!」ではなく、「ヘルプ!」なのだ。
「解説」で棚瀬が自ら述べているが、訳文の懲り方は尋常ではない。この「解説」、実に面白い。英文科でなくても、ましてやジョイスの専門家でなくても面白い。経営コンサルタントを生業としている者にとっても面白い。新教徒の「メソジスト」に対しては「めそ児ッたれ!」とする心意気、「執達吏」には「ひったくり」とルビを振る小気味よさ、"winnowed"を「簸(ひ)られた」と訳す日本語力。本人も言うように『日本語は天才である』。
腰巻にもあるように「画期的新訳」であり、2009年の日本の読書第一四半期における最大の話題書である事には間違いがない。