『ちょっと珍しい子育て論』
著者は美味しんぼの原作者。生まれが1941年で戦前・戦後の狭間を経験し、異様なまでの反権力・反戦中であるのは知られている。また年齢からジャズが流行っていたのでジャズへの傾倒もまたあの辺りの世代の典型ではある。この辺の世界観(前者)が今の若年層から拒絶されているのであろう。ただこの著作は海外それを差し引いても十分に参考になると思う。
内容は日本の受験に方向付けられた教育が気に入らないのでオーストラリアに自分の子供4人を連れていく。そこでアングロサクソンの態度や生き方など日常生活で齟齬を経験しつつも、偶然に出会ったシュタイナー教育を行っている学校グレネオンに子供を入学させる。今では長女はそこで教師をしたり、次女は獣医師となったりと今では皆いい学校だったと感慨深くよき思い出となっている。
私は海外で教育するお金も意欲もないが、特に同じ科目を連続三週間ぶっ続けでやるシュタイナー教育の一環であるカリキュラム(メインブック)や、子供4人の「私は日本人なのかオーストラリア人であるのか」「私は一体誰だ」というアイデンティティーの問題に著者が具体的に活写しているところがなかなか読ませる。
著者のオーストラリアで出会う状況に四苦八苦しながら奮闘する自省的な教育論だ。教育論だけではなく美味しんぼの著者のリアルな人柄を知る上でもなかなか興味深かった。分量は多いが、結構すぐ読める文体です。男性による自省的な海外教育論として珍しいしおすすめです。最近読んだ教育論として「母性の復権」(中公新書)なども納得のいくおすすめの本です。